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春巻と杏仁豆腐

歌集を中心に読んだ本の感想など。

砂糖パンと猫

小池光『思川の岸辺』(角川書店)を読んだ。

 

わが妻のどこにもあらぬこれの世をただよふごとく自転車を漕ぐ(p83)

 

亡くなった妻への思いを詠んだ歌を中心に542首。

 

読み終えて、歌集一冊の時間の重みについて考える。

亡くなった妻や、家族の記憶へ思いをめぐらす歌について時間が感じられることに加えて、

 

例えば、

お父さん、とこゑして階下に下りゆけば夕焼きれいときみは呟く(p47)

家階段のなかばにすわることのあり来し方のこと行くすゑのこと(p146)

 

最後の靴二年半前買つたつきりそれからそれからいろいろの事(p32)

きみの靴捨てむとしたる手ふと止む最後に履きしはいつとおもひて(p217)

 

モチーフのつながりというだけでなく、階段という場での思いの変化、妻の靴に対する思いの変化、を読みとることができる。Aの歌が、A´というように、少しずつ歌の世界が変奏されていくように感じられる。

 

このように、歌の配置によって、一冊のなかで経過していく時間を読者は受け取るのではないだろうか。

 

 

「砂糖パン」の歌が特に心に残った。

そして、小池さんのそばに猫がいて良かった、と少しだけほっとするのだ。

 

砂糖パンほんとおいしいと川のほとり草の上こゑを揃へて言ひき(p62)

おもひたちけふの昼餉に砂糖パンわれひとり食ひてなみだをこぼす(p63)

夕つ日は疎林の中にきりこみてその中に在るひとりをてらす(p85)

猫形のいのちひとつを抱き寄せて沈む夕陽をあるとき見つむ(p100)

夏になりて水をたくさん飲む猫よのみたまへのみたまへいのちはつづく(p203)

 

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